2024.08.17
釣り・チヌ
秋のチヌ釣り。乗っ込みとはひと味違う

Question(以下Q)「さっき松田さんが、秋のチヌ釣りは春先よりも難しくなるとおっしゃったのは、その付近のことだったんですか?」
会長(以下、太文字)そうや。
Q「例えば、具体的にはどんなこと?」
まず道具の中では、ハリスやろう。秋のチヌは、太いハリスではまず食わん。
Q「春先の乗っ込みチヌが太いハリスでも気にしないのに?」
そうや。磯近くにおって生き残ったチヌは、釣り師に追い回されてるんやから、ちょっとでも不自然なもんには用心するようになるからよ。
そやから秋にチヌを狙うんやったら、太いハリスは禁物や。
Q「道具の中では特にハリスに配意することですか。他には?」
ウキ下は当然深くせなならんことになるわな。
Q「なぜです?」
藻が少のうなってるからよ。
Q「え?藻?それはまた何のことですか?」
1から10まで全部わしに説明させるんか?
Q「そうです(笑)お願いします。」
とんでもない人やな(笑)。
春先は浅場に藻が生えてるところが多い。
チヌはその中に入って産卵をするし、身を隠したかったら藻群の中に入るんや。
ところが、藻は春から秋にかけて海の荒れで根切れする。
秋には藻のない場所が多くなるんよ。
そやから秋になると、ほとんどの釣り場が藻が無いようになってしまうわな。
藻が生えとれば、その中に入って身を隠すようにしながらも藻の先端付近で餌を拾えるわけよ。ということは、ウキ下をそれほど深く取らんでも何とか釣る事ができるわな。
Q「あー、なるほど。」
ところが、藻が無いんやけん、身を隠すとすれば何がある?
Q「じゃあ、シモリなどが最適だと思います。」
うん。藻以外の海草の茂みとか、シモリが身を隠すものになるんやろうな。
そこでや、例えばチヌがシモリを隠れ場にしてるとする。
シモリは海底にあるものや。しかも、チヌは浮く気がない。
とすれば、チヌのおる所まで刺し餌を持って行ってやらな釣れんという結論が出るんと違うか?
Q「だからウキ下は当然深くなる。なるほどねぇ。
春先のチヌ釣りとはずいぶん違うもんなんですねぇ。」
今まで話した通り、秋のチヌというんは、危険には敏感なぐらい敏感になってるんよ。どうしても身を隠そうとする。
そやから、秋にチヌ釣りをしようと思うたら、海底に障害物がある場所を選ぶことが絶対に必要なんや。海底に障害物が見当たらん場所で秋チヌを狙っても、まず釣れんと思ってええな。
Q「教えてもらうと、同じ釣りでも時期が違えば釣り方も異なることがよくわかりますねぇ。整理すれば
①乗っ込みチヌは浮くものが多いけれども、秋になると浮かないチヌが増える。
②春先のチヌはハリスを気にしないが、秋のチヌは太いハリスでは食わない。
③春のチヌはオキアミに飛びつくけれども、秋のチヌの中にはオキアミに見向かないものもいる。
④秋のチヌ釣りでは、底に海藻とかシモリなどの障害物を絶対に必要とするし、ウキ下もグンと深くなる
ということでよいですね?」
理論的にはそんなところやろうな。
Q「と、言いますと、これだけでは不十分なわけですか?」
一番肝心なところが出来なんだら何にもならんでな。
Q「肝心な事?」
そうや。実際の釣法や。
Q「例えば?」
例えば?
例えばも何も無いぞ。
チヌという魚は、釣り方が違ったら食わんでよ。
ウキ下が深くなっても、刺し餌だけを独り歩きさせとったんでは釣れんけん。
深くてもやっぱり撒き餌に刺し餌を一致させんことにはチヌは食わん。
浅い位置で撒き餌と刺し餌を一致させるんも難しいのに、深い場所でそれをすることができるという自信があるか?
Q「いやあ、私にはとてもその自信はありませんね。」
二枚潮というのを知ってるやろ?
順当な二枚潮でも、底へ撒き餌と刺し餌を届けるんさえ難しい。
まして、上層と下層の流れがチグハグな二枚潮、三枚潮の場合はどうするん?
Q「全く分かりません。」
秋のチヌは障害物に身を隠すと話したわな。
その障害物にチヌがついとるんやけど、チヌがおる前でカブセ潮があったら、刺し餌を届けるのも難しいぞ。
Q「カブセ潮?」
知らんか?
そんじゃ、磯に立ったつもりで考えてみてくれ。
前方にシモリがある。潮はそのシモリに向こうへ流れてる。
チヌはシモリの裏の方におるんよ。
そやから撒き餌を流れに乗せてシモリの方へ流した。
仕掛けも同じように流れに乗せてる。
順当にいけばチヌのところで撒き餌と刺し餌が合うようにして流すわな。
それで両方の餌が合うと考えてるのが普通や。そやろう?
Q「私も考えてやりますねぇ。」
ところが、チヌがおる底の方では流れが違うてるわな。
Q「えっ?流れが違う?」
そうや。シモリの上層の流れはそのまんますんなりと流れていく。
そやけど下層の流れはシモリに当たって右と左。
それに上と割れて流れるはずや。
流れがきつかったら、シモリの両脇へ割れる潮は勢いよく右と左へいこうとする。
その割れた潮の流れへ、シモリにぶち当たらん直の潮が流れてくるんや。
割れて脇へ行こうとする流れとぶつかって、割れた流れを乗り越えようとするんや。
潮と潮がぶつかるんやけん、そこには潮目もできる。
それがカブセ潮よ。
こんな複雑な流れ方をする潮をクリアできる釣技を持っとらんことには、チヌのところまで刺し餌は届けられんで。
Q「二枚潮とかカブセ潮を見極める感覚と、そんな潮をクリアして仕掛けを操作できる腕が無かったら?」
わからんかな?
秋のチヌは障害物を必要とすることとその理由は今まで何度も話した。
例えば、チヌがシモリを利用してそこに身を隠しているとする。
そこは潮流があって、シモリに向かって潮が流れているような場合、どうしてもさっき話したような複雑な流れになるわな。
また、チヌは得てしてそんな場所に寄ってることが多いんや。
そんなチヌを釣らんことには、秋の釣りでは満足な釣果を得られんことが多い。
どうや、カブセ潮の近くにおるチヌを攻め落とす自信は?
Q「いやぁ、聞いただけでも難しいことがわかります。とても自信なんかありません。」
それやったら、理論を知っとっても釣法がそれについていかんというこっちゃ。
理論的な事は確かに知っとく必要はある。
そやけど、理論倒れになったらいかんわな。
海は一様と違うけん、流れのあるところで釣らなならんこともあるし、流れも単純なものばっかりとは限らん。
二枚潮、カブセ潮というような複雑な流れや。
東北地方の日本海へ行けば、秋から初冬にはノコギリ状の波が出来て仕掛けの操作もままならん状況にも出くわす。
そんなんで秋のチヌ釣りは難しいんよ。
Q「うーん、簡単に考えてはいけないんですね。しかし、釣技が上級ではないから理論的なことは必要ないとは言えないでしょう?」
そら、もちろんや。
相手を知り、釣法で頭で覚えて自分の腕を磨くこともできるんでな。
釣りたい対象魚のことは理論的に知っとくべきやわな。
ただ、わしが言いたいんは、頭の中に覚えたからというて、それですぐ釣れるようになるもんとは違うということよ。これは掲載するんやろう?
Q「その予定です」
それやったら、わしが話し、君が書いたことを読んだ人が、書いてある通りにやっても釣れなかったとする。
そしたら、読者は「松田は嘘を言うとる。君はいい加減なことを書いた」と思うかもしれんやろ。
Q「あー、なるほど。」
そこんところをはっきりさしときたいんよ。
わしが君に話したことは、松田流の釣り方よ。
この釣法を確立するために何年も苦労と実験努力をしてきたけん、理論、釣り方、腕を十分持ってると自負しとる。こうして話してる内容はそのエキスなんや。
基本部分と言うてもええわな。 釣法についても基本的な事を話してるもんが多い。
もっと細かく話したら良いんやが、そうすると、多分なんぼあっても足りんようになると思う。 ただ、話の内容は、釣りをするのに絶対必要な要素ばっかりやけん、頭の中で十分に覚えて、あとは自分の努力で腕をあげてほしいな。